「はじめまして。黒猫です。」
黒猫は4本の足を一箇所に揃え、姿勢を正して丁寧にお辞儀をした。
顔を上げたときに黒いまんまるの目を真っ二つにするように、鋭く光る黄色い瞳孔が縦に細く伸びた。
「実はあるものを探していまして。」
黒猫は言った。
「見つけるのは簡単なのですが、あなたの協力無しにそれを見つけても意味がないものなのです。
僕一人で見つけてもそれは実に役に立たないものになってしまう。」
黒猫の黄色い動向がいっそう細く縦に伸びて光を帯びた。
私の顔を覗き込むような角度に少し首を傾けて続けた。
「というか既に、これかなぁ?っていう目星がついているものがいくつかあるんですよ。
その中からあなたはただ単に一つを選んでくれればいい。
つまり、その探し物っていうのはあなたが決めたそれって事になる。
まぁ特別、難しい事は何もありません。
ご協力いただけませんか?」
「よくわからないけど、私の協力が必要っていうのはわかったよ。
でも私にはあなたを助ける理由がない。意味もないでしょう?たぶん。
例えば、、そうだなぁ、、、協力したらいくらか報酬があるとか、足を長くしてくれるとか、
とても素敵な恋人を紹介してくれるとか。
私は猫は好きだけど、私にとって意味がなかったらあなたを助ける理由はないよ」
わからないけど、私には時間が無かった。
だから少しでも意義のある事を成したいと思っていた。
時間がないっていうのは死ぬわけじゃない事は確かなんだけどとにかく時間が無い感じがした。
黒猫は少し困った顔をしてうつむいて言った。
毛並みのいい背中に背骨が浮いて見える。
「確かに。あなたにとって私というただの猫を助ける理由も意味も、
正直申し上げますとありません。
しかし、それは私がただの猫であればの話です。
あなたは私がどんな猫か知らないからそう思うだけなのです。」
「じゃあどんな猫だって言うんだい?」
私はちょっと意地悪く言った。
別に見返りなんてなくても黒猫に協力してもよかったが、なんとなくだ。
しかし、だんだんめんどくさくなってきた。
黒猫はその探し物を見つける事は私にとって意味のある事だと言った。
だから自分に協力する事は十分私にとって意味があると言った。
でもその意味は探し物であるソレが見つかってからでないと黒猫にもわからないそうだ。
でも、絶対に意味があるそうだ。
という事は、その黒猫の探し物というのは私が自ら探そうと思わなければいけないもの
なのではないのかしら?
結局なんだかよくわからないけど、私は「黒猫の(あるいは私の)探し物を決める」事になった。
探し物を決めるなんて普通は順序が逆だろうに。
「で、どーすりゃいいんだい?」
「コチラに」
黒猫はすっと立ち上がると、くるりと向きを変えて私を振り返った。
尻尾をゆらゆらとふりながら黒猫は静かに歩いていく。
私はその後をついていった。
あたりは特に何も無くただ薄暗いだけだ。